他のゲームに気を取られているうちにものすごく間が空いてしまいましたが、前の記事で少し触れていた、『TPP』第二章のスカスカ感、すなわち章構成の歪さが、ある程度意図的な演出だったのではないか、という話について。
『MGSV:TPP』の章構成
『MGSV:TPP』のストーリーは、「序章+第一章+第二章」という構成になっています。
各章の中身であるメインエピソード(TVドラマ等における「第○話」に相当)の数は、
- 序章:1(Ep.0)
- 第一章:31(Ep.1~31)
- 第二章:19(Ep.32~50)
で、合計51。数だけ見ればかなりのボリュームです。しかし問題はその中身です。
第二章の約3分の2は、第一章のエピソードの高難易度版、いわゆる「焼き直しミッション」で占められています。ゲーム的には歯応えがあるものの、シナリオ的には過去の繰り返しでしかなく、新規性がありません。「第二章はスカスカ」、「使い回しで水増しされている」などと言われてしまう所以です。
『MGSV:TPP』のメインエピソード一覧
『TPP』のメインエピソードを表にまとめてみました。新規エピソードの場合は右側の欄に英題を併記しているので、そちらを見ながらスクロールすれば第二章のスカスカ具合がよく分かると思います。
※高難易度版ミッションの種類は略称で表記します。([S]=[SUBSISTENCE]、[E]=[EXTREME]、[完]=[完全ステルス])
序章 覚醒 Awakening | ||
0 | 序章 覚醒 | Awakening |
第一章 報復 Revenge | ||
1 | 幻肢 | Phantom Limbs |
2 | ダイアモンドの犬 | Daimond Dogs |
3 | スペツナズの英雄 | A Hero' Way |
4 | 通信網破壊司令 | C2W |
5 | バイオニクスの権威 | Over The Fence |
6 | 蜜蜂はどこで眠る | Where Do The Bees Sleep? |
7 | 臨時会合を狙え | Red Brass |
8 | 進駐戦車隊、東へ | Occupation Forces |
9 | 装甲部隊を急襲せよ | Backup,Back Down |
10 | 故郷なき虜囚 | Angel With Broken Wings |
11 | 静かなる暗殺者 | Cloaked In Silence |
12 | 裏切りの容疑者 | Hellbound |
13 | 漆黒の下 | Pitch Dark |
14 | リングワ・フランカ | Lingua Franca |
15 | 赤道のウォーカーギア | Footprints Phantoms |
16 | 売国の車列 | Traitors'Caravan |
17 | 囚われた諜報員 | Rescue The Intel Agents |
18 | ダイアモンドの虜 | Blood Runs Deep |
19 | ロング・トレイル | On The Trail |
20 | 声の工場 | Voices |
21 | 灼熱の空港 | The War Economy |
22 | プラットフォーム奪還 | Retake The Platform |
23 | ホワイトマンバ | The White Manba |
24 | 目撃者 | Close Contact |
25 | 小さな反乱者 | Aim True, Ye Vengeful |
26 | ハント・ダウン | Hunting Down |
27 | ルートコーズ | Root Cause |
28 | コードトーカー | Code Talker |
29 | 極限環境微生物 | Metallic Archaea |
30 | 民族浄化 | Skull Face |
31 | サヘラントロプス | Sahelanthropus |
第二章 種 Race | ||
32 | 知りすぎた男 | To Know Too Much |
33 | [S]通信網破壊司令 | - |
34 | [E]装甲部隊を急襲せよ | - |
35 | ジャングルの遺留品 | Cursed Legasy |
36 | [完]赤道のウォーカーギア | - |
37 | [E]売国の車列 | - |
38 | 異形の調査報告 | Extraordinary |
39 | [完]バイオニクスの権威 | - |
40 | [E]静かなる暗殺者 | - |
41 | 終わりなき代理戦争 | Proxy War Without End |
42 | [E]極限環境微生物 | - |
43 | 死してなおも輝く | Shining Lights, Even In Death |
44 | [完]漆黒の下 | - |
45 | 静かなる消失 | A Quiet Exit |
46 | 世界を売った男の真実 | Truth: The Man Who Sold The World |
47 | [完]灼熱の空港 | - |
48 | [E]コードトーカー | - |
49 | [S]進駐戦車隊、東へ | - |
50 | [E]サヘラントロプス | - |
第一章は全てが新規エピソードで構成されているのに対し、第二章は全19エピソード中、新規エピソードはわずか7つのみ。そのうち最終話に当たるEp.46は序章Ep.0のほぼ使い回しなので、実質6つとも言えます。
第一章が31。
第二章が6ないし7。
二つの章の差は歴然です。しかしこの構成、さすがに偏りすぎではないでしょうか?
第二章がスカスカなのは確かにそうなのですが、なぜ第一章にこれほどギチギチに新規エピソードを詰め込む必要があったのか。第一章をもっと小分けにした上で、高難易度ミッションの配置を各章にばらけさせていれば、「終盤がスカスカ」という印象を回避することは容易だったはずです。
『TPP』は実質全五章?
通常、「章」とはストーリーのまとまりごとに区切られるものです。過去のメタルギアシリーズでも、舞台の移動時や大型ボス戦の後といったタイミングで章が切り替わっていました。
例えば『MGSPW』では、このような感じです。
- 第1章:Ep.1~10(対ピューパ戦まで)
- 第2章:Ep.11~15(対クリサリス戦まで)
- 第3章:Ep.16~22(対ピースウォーカー戦1回目まで)
- 第4章:Ep.23~26(対ピースウォーカー戦3回目まで、1度目のエンドロール)
- 第5章:Ep.27~34(後日譚、対ZEKE戦、2度目のエンドロール)
『TPP』の全39の新規メインエピソード群を、同じようにストーリーのまとまりで章分けするとしたら、おそらく以下のような全五章構成に落ち着くのではないでしょうか。
- キプロス編:Ep.0(プロローグ)
- アフガン編:Ep.1~12(対サヘラントロプス戦1回目まで)
- アフリカ編:Ep.13~29(コードトーカー救出まで)
- 決戦編:Ep.30,31(対サヘラントロプス戦2回目まで、1度目のエンドロール)
- その後編:Ep.32,35,38,41,43,45,46(後日譚、2・3度目のエンドロール)
一章目で大事件に巻き込まれ、二・三章目で謎を追い、四章目で大事件が概ね決着、五章目は後日譚。こうして見ると、構成としては『PW』にかなり似ていますね。
「スカスカ」と非難された『TPP』第二章も、『PW』第5章と同じ「全五章構成の最終章にあたる後日譚パート」と考えれば、さほどおかしな分量ではなさそうです。ラスボス戦がなく最後のクライマックス的な盛り上がりに欠けるという問題点はありますが、同士討ち事件やメインキャラの離脱などストーリー上のイベントは充実しており、後日譚としてはむしろ長い部類でしょう。ヴェノムの終わりなき戦いの日々が続いていくフェードアウトの導入としては、ほどよいボリュームだったのではないかと思います。
分量的におかしいのは、やはり第一章のほうでしょう。プロローグと後日譚を除いた残りの全てが詰め込まれており、実質『TPP』本編とほぼイコールのようなものです。ミッション数としては『PW』の第1章~第4章分よりも多いわけですから、一つの章としてはかなり冗長と言えます。少なくともアフガン編とアフリカ編については、別の章に分けたほうがストーリー的にもゲームプレイ的にも自然だったはず。どうも、第二章との落差をわざと生み出そうとしているかのように見えますね。
ミスリーディング
あまりにも第一章に偏った構成なので、『TPP』における章は、ストーリー進行度の目安としては機能していません。では何のために作中で章を明示しているのか。章の区切り方については、3分割だろうと10分割だろうとゲーム全体のボリュームが変わるわけではないので、おそらく筆頭シナリオライターの小島さんか、ディレクターの小島さんあたりが、個人的な裁量で作家性を発揮する領域だと推測されます。
ストーリーを「大事件」と「後日譚」に分けたかった、「二つの章」であることに象徴的な意味がある、など、色々考えられますが、真っ先に思い浮かぶのは、やはりシリーズの伝統芸、「ミスリーディング」でしょう。『V』ではやりすぎというレベルで多用されていますが、章構成から徹底されているのであれば、一つの様式美を極めたと言えるかもしれません。メタルギアと言えば、ダンボール、千里眼な無線サポート、そしてミスリーディング。
『TPP』の章は名目上は「序章+第一章+第二章」となっていますが、実質的には「プロローグ+本編+エピローグ」に近い構成です。普通、この構成の時には章番号は振られません。「第一章」が存在する場合、最低でも「第二章」は存在します。そうでなければ番号の意味がありません。そしてその「第二章」は、質・量的に第一章と同規模の「本編」であることが求められます。漫画の単行本に「第一巻」という表記があったら、同じぐらいの厚さと内容の「第二巻」が出るはずだ、と思いますよね。それが人情というものです。その期待に応えられないことが予め分かっている場合は、誤解を招いてがっかりさせないよう、番号を振らないのが、一般的な社会性のある選択というものだと思います。(まあ例外もありますが…。)
しかし、『TPP』ではどういうわけか、敢えて本編の大部分を一つの章に詰め込んだ上で、敢えて番号を振るという、わざわざ誤解を招くようなことをしています。さらにはご丁寧にも、第一章の後に「次章予告」なるダイジェスト映像を挟み込み、第二章への期待を煽る、念の入れよう。これでは、第一章と同規模の「本編」としての第二章が存在する、とプレイヤーが期待するのは当然です。どう見てもわざとやっています。「第二章がスカスカ」という非難は、作り手自身が招いた結果なのです。
肩透かしを食らったプレイヤーはがっかりし、作品の評判は落ち、作り手は叩かれる。いくら監督がミスリーディング好きでも、これだけではさすがに不毛すぎるように思えます。ミスリーディングはあくまでストーリーテリング上の手段の一つであって、目的そのものではないはずです。
「これで終わった気がしない」
第一章と同規模の第二章がある、という期待を煽るミスリーディングによって、多くのプレイヤーにもたらされたものとは何でしょうか。
それは、クリア後の「えっ、これで終わり?」という気持ちです。
『MGS3』から入ったファンとしては『TPP』のエンディングは元よりすっきりしないものでしたが、その辺りは個人の受け取り方次第です。ヴェノムの物語単体として観れば、ビターな味わいがあるエンディングとして、すんなり受け入れられる人もいるでしょう。
しかし、作り手側としてはそれでは都合が悪かった。エンディング後に「これで終わった」と納得してもらっては困る、何らかの理由があったのだと思われます。
そこで、章構成のミスリーディングの出番です。この禁じ手とも言える荒業により、ストーリーの中身以前の問題で、多くの人に「えっ、これで終わり?」と思わせることに成功したはずです。未完説がまことしやかに囁かれていたことも、その表れと言えるでしょう。
第一章の終わりにミラーさんが発した「これで終わった気がしない」という台詞とも重なることから、プレイヤーにこの気持ちを味わわせることが、そもそもシナリオの一部として組み込まれていた節があります。
「これで終わった気がしない」と思って欲しかった、ということは、つまり、「まだ終わっていない」ということを意味すると思います。
しかし、『TPP』のメインストーリーはEp.46で終わってしまいました。その先にまだ何かがあるというのでしょうか? 次頁ではその辺りを掘り下げてみたいと思います。