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歌詞・物語の解釈メモなど

MetalGearメモ(4) 未完の先

クリア後に「これで終わった気がしない」という気持ちにさせるために、敢えてアンバランスにしたと思われる『TPP』の章構成。その先に何もないなら、そんな仕掛けは無意味ですから、たぶん何かはあるのでしょう。それは一体何なのか。

 

 

A HIDEO KOJIMA GAME

『TPP』はやり込み要素がたくさんあるので、ストーリークリア後も引き続きゲームを楽しむことができます。ただ、それと物語作品としての面白さはやはり別腹というものです。「ゲームシステムは最高、ストーリーはイマイチ」。発売後の評価ではそんな声も多く聞かれました。やり込みの楽しさでストーリーへの期待値を埋められるわけではない、ということでしょう。

ゲームと物語、どちらも高いレベルで楽しめるからこそ、メタルギアシリーズは長年人気を博してきたのではなかったか。『TPP』ではチキンキャップのような救済措置も用意されていましたし、「ゲームは不得手だけどストーリーを楽しみたい」という層のことも、作り手は意識していたはずです。

それなのに、「ゲームとして面白ければストーリーはぶん投げてもいい」などと妥協できるものでしょうか? 大の映画好きを公言し、シナリオにも演出にも人一倍こだわりがありそうな、あの小島監督が? 自分が筆頭シナリオライターを務める、「A HIDEO KOJIMA GAME」と銘打った作品で? ちょっと考えにくいですよね。本当にこれが最後になるかもしれない、という土壇場の状況だったなら、なおのこと、物語作品としての面白さも諦めたくはないでしょう。予算や納期が厳しかろうと、シナリオを削ることを余儀なくされようと、その時できうる限りの「最高」を目指したはずです。

その結果が、最後の小島製メタルギアが、「ストーリーはイマイチ」と言われるようなものであっていいのか。いや、よくない。小島監督の力はこんなものではないはずだ。きっと何か隠し球があるに違いない。HIDEO KOJIMAのクリエイター魂を、チームコジプロの底力を信じるんだ。

…正直に申し上げると、私はどちらかというとメタルギアのキャラクターや作品世界のファンであって、別に監督個人のファンというわけではないので、最初は露ほどもそんなことを考えてはいませんでした。ただ、今ではHIDEO KOJIMAが天才であるということを確信しています。つまり、隠し球らしきものは実際にあったのです。「メタルギアのストーリーは『3』が最高」という立場をずっと変えなかった私が、「『V』の物語、ひょっとしてメタルギアサーガ全体を一つの物語作品として大傑作にしてしまったのでは? 天才か?」と手のひらを返さざるを得ないようなものが。

ただ、思った以上にスケールが大きすぎて、未だに頭の整理に苦労し、言語化に時間を要しております。なかなか終わりが見えません。果てしなきメタルギアサーガ。未完説、ある意味大正解。

 

エンディングの先にあるもの

隠し球とは何なのか。一言で説明するのは難しいので、まずは消去法で足場を固めていきたいと思います。

『TPP』の隠し要素と言えば、FOB関連のコンテンツとして、いわゆる「核廃絶エンド」と呼ばれるムービーの存在が知られていますね。しかし、前提となる条件があまりにも厳しく、足を引っ張り合う賽の河原といった感じの仕様なので、ほとんどの人が見ることができないまま十年近くが経過してしまいました。もはや隠し要素とさえ呼べない何かと化しているような…。シリーズ伝統の〈反戦反核〉というテーマにおいては意義深い内容ではありますが、大国が保有する核兵器はどうするんだ、という問題もありますし、あくまでメインストーリーとは異なるIFルート、夢エンドのようなもの、と考えるのが妥当ではないでしょうか。

もう一つ、映像特典の「幻のエピソード 蠅の王国」というものもありました。未完成とはいえ、ヴェノムとイーライの見せ場であり、重要な伏線も回収されているので、メインストーリーの一部と捉えても良いんじゃないかと思います。折角の英語版キャスト陣の熱演がもったいないですし。ただ、一瞬挟まれる鬼ヴェノムのカットからすると、時系列的にはエンディングの少し前の話のように思えます。おそらく、カットされた終盤のシナリオだったのではないでしょうか。あるいはDLCにする構想があったか。仮に本編に含まれていれば、エンディングに向けた流れがもっと自然にはなりそうですが、クリア後の「これで終わった気がしない」という印象を大きく変えるものではなさそうです。限定版の特典ですし、隠し球というよりは、あくまで本編を補強するオマケ、といったところでしょう。

 

幻の第三章?

かつて、『TPP』には幻の第三章がある、という噂が流れたこともありました。結局、「第三章PEACE」と書かれたチャプタータイトルらしき画像データが解析で見つかった、というだけの話でしたが、日本語タイトルが「平和」ではなく「共生」になっているあたり、いかにも本物らしい感じがします。初期構想の名残りか、カットされた終盤シナリオ用の素材だったのでしょうか。

もし本物であるなら、小島監督が思い描いていたストーリーの全貌がどんなものだったのか、その一端を伺えそうで大変気にはなりますが、没データはあくまで没データ。クリエイターの勝負の舞台は作品本編であるはずです。本当に表現したいことは、解析でしか分からないようなところではなく、本編中で観られるようにするでしょう。単にメインストーリーの章構成を「序章+第一章+第二章」という分け方に変更したため、第三章の画像が余っただけ、という可能性もあります。解析されることを見越してわざと残しておいたとしても、ちょっとしたヒント程度のものなのではないでしょうか。

 

ラストミッション

『TPP』のどこを探しても、メインストーリーの続きのようなものは見当たりません。やはり物語はEp.46で終わりで、その先には何も存在しないのか…。

存在しない、と言えば、エンディング後、物語を完成させるための重要なピースが欠けているような、そんな感覚がしなかったでしょうか? 今までの小島製メタルギアにはいつもあったはずの、大事な何かがなかったような、忘れているような…。もしかしたら、色んなことに気を取られて、肝心なものを見落としていたのでは? そのせいで物語を理解できていない、という可能性はないでしょうか。

そこで思い出したいのが、Ep.46で引用されていた、ニーチェのこの言葉です。

事実なるものは存在しない、あるのは解釈だけだ。

エピグラフ風のメタ的メッセージとして、わざわざ作中で念押ししてくるということは、単なる一般論や哲学の話がしたいわけではなく、作品の中身にとって大事なことを示唆しているのでしょう。

我々が見ていると思っていた物語も、あの世界における事実というわけではなく、あくまで頭の中にある一つの解釈にすぎない。すなわち、『TPP』の物語は色々な解釈が可能である、と言いたいようです。

つまりこの言葉は、

「ぱっと見のストーリーだけで終わりじゃないから、別の解釈も考えてみてね」

という、ゲームデザイナー小島監督からプレイヤーに向けた、ラストミッションの指令なのではないでしょうか。言わば、「ストーリー面におけるやり込み要素」というわけです。

 

カバーストーリー

「人々には適度な物語が必要だ」

作中ではゼロ少佐のそんな台詞も出てきましたが、我々はずっとその「適度な物語」、シリーズお馴染みの「カバーストーリー」を見せられていた、ということなのでしょうか。

過去作では敵役やどんでん返し役の常連だったオセロットが、『TPP』では最後まで味方サイドで大人しくしていたことが、なんだか引っ掛かる気はしていましたが…。思い返せば、敵の背景や「本物のボスの意志」など、ストーリーの核心に関わる重要な情報は、オセロットの口から説明されることが多かったように思います。嘘や誘導のプロである彼の話を、少々鵜呑みにしすぎてはいなかったでしょうか?

オセロットは、ジョージ・オーウェルの有名なディストピア小説1984年』の、「2足す2は5」、「ダブルシンク」といった言葉を引用して、己自身さえも騙すことができる、といった感じのことも言っていましたよね。

そもそもゼロ少佐の意向を受けて、影武者ヴェノムのお膳立てをしたのもオセロットでした。ヴェノムの物語自体が少佐の描いた「カバーストーリー」の一環であるならば、オセロットが引き続きその進行に一枚噛んでいた、あるいは駒として利用されていた、という可能性は大いにありそうです。

 

もう一つの物語

「カバー」と言えば、『TPP』の冒頭とエンディングでは、デヴィッド・ボウイの「The Man Who Sold the World」のカバー曲が流れていました。その曲名はEp.46「世界を売った男の真実」にも使われ、いかにも重要そうなモチーフとなっています。ボウイが歌う原曲ではなくカバー曲だったのは、権利関係の問題もあったのかもしれませんが、オリジナルとは別人、というヴェノムのキャラクター性にはピッタリだったと思います。

歌詞については、また別の記事で詳しく検証したいと思いますが、ドッペルゲンガーのような二人の男、二人のビッグボスを想起させるような内容です。

『TPP』冒頭のシーンでこの曲を奏でているのは、昔懐かしの文明の利器、カセットテープ。A面とB面、二つの面を持つ記録媒体です。薄暗い小さな部屋の中、男がカセットプレイヤーを洗面台に置き、鏡の前に立っている。鏡の中に映し出されるもう一つの顔は、お馴染みのあの顔か、それとも…。

このシーンはエンディングとも対になっていますが、どうも「二つ」とか、「対」といった感じの要素が頻出していますね。

二人の男。オリジナルとコピー。ダブルシンク。鏡。二つの顔。カセットテープ。表と裏。二つの章。

これらの「二」にまつわる要素は、おそらく、『TPP』の物語構造が持つ二面性を象徴しているのでしょう。

ヴェノムの物語が「カバー」すなわち表側、カセットのA面であるならば、その裏側にはカセットのB面、対になるもう一つの物語が存在するはずです。

つまり、作り手側はプレイヤーの解釈に全てをぶん投げているわけではなく、作り手なりの一つの答え、一つの解釈の例として、「裏のストーリー」と呼べるものをちゃんと用意しているのではないでしょうか。

『TPP』の裏のストーリー。そんなものがあるとしたら、一体どんな物語になるのか。次頁では、その鍵となりそうな人物に着目してみたいと思います。